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2013年5月19日 (日)

寝床

 暗い部屋のなかに、薬にも似た清爽な香りがたちこめている。

 湯を張ったホーローの容器に、いくつかのハーブを入れたものがベッドサイドに置かれているからだ。
 それを置いてくれたのは、もちろんミンクだ。病みあがりの俺の喉が、いまの時期の乾いた空気にやられないようにしてくれたんだろう。
キルトの布団にくるまりながら、俺は甘い喜びと……独り寝の寂しさを同時に感じていた。
 体の奥でじわじわと疼いている熱……。
それは薬草の香りでもかき消すことのできない、はっきりとした欲望だった。

 ミンクの想いと熱にやっと辿り着いたあの日の後、俺は熱を出して寝込んでしまった。
 そのときのことは、ぼんやりしていてよく覚えてないけれど、俺の額に手を当てたミンクが「馬鹿が……!」と唸るように呟いてたのだけは覚えている。

 そう言われてもしかたがないと思う。
 俺を抱く前に、ミンクは何度も俺の体を気づかってくれた。俺の体に障ると、その行為をやめようとした。
 それを無理に押し切って俺はミンクに抱かれた。
 後回しにできることじゃない、どうしてもその瞬間それが必要だった。
 だから、ぶっ倒れても俺は微塵も後悔なんてしていないけど───
 俺の看病をしてくれるミンクの眼差しに、わずかばかりの苦さを感じるときがあった。たぶんそれは俺に対してすまないと思う気持ち、なのかもしれない。

 ミンクにそんな思いをさせてしまったことが申し訳なくて、俺はおとなしく臥せっているしかなかった。
 ひとりは寂しいから一緒に寝てくれなんて──そんなわがままは言えなかった。
 

 寝込んでから5日めの朝──
 台所に向かうと、すでにミンクがカウンターに向かって支度をしていた。
「おはよう!ミンク」
 俺はわざとらしいほど「元気」を主張した声を出す。
「もう、大丈夫だから。今日は俺が朝ごはん作るよ」 
 そろそろ病人モードを脱出したい俺が、そう声をかけると
「お前の大丈夫はあてにならねえな」
 ミンクが振り返りもせずに呟く。
 痛いところを突かれて言葉に詰まった。けど、これからミンクとやっていくには、俺も押しを強くしていかないと。
「本当にもう平気だって!いいから俺に……」
 そう言って押しのける勢いでミンクの隣に立ったが、目の前にはすでにスープの盛られた皿があった。
「持っていけ」
「う……うん」 
 二人分のスープと二人分のパン、二人分のチーズ。
 それらをテーブルに並べて……俺たちは向かい合って朝食を食べた。
 
 考えてみると、ミンクとこうして一緒にものを食べるなんて初めてかもしれない。寝込んでいるときは、ミンクが俺のベッドまで食事を運んでくれていたし。
 少し緊張しながら、茶色くて堅いパンをスープに浸して飲み込んだ。
 でも俺の荒れた喉には、まだ刺激が強かったのか、ふいに咳き込みそうになり、俺は慌てて喉元を手で押さえる。
 いま咳なんてしたら、またミンクにベッドに連れて行かれてしまう。
 息をつめてやりすごそうとしたものの、それは逆効果だったらしくて、数瞬の抵抗の後、俺は鼻から盛大にむせた。
「えほっ……かっ…ごほっ……っ…!」
 背を丸めて咳き込んでいると
「………何をやっている………」
 呆れをたっぷり含んだミンクの声が突き刺さった。
「な…なんでもな……喉につっかえて……」
「慌てて食うからだ」
「うん……と、ところでミンク……」
 俺はミンクの気を逸らそうと、息を整えながら強引に話を振った。
「今日は…仕事行くのか?」
「いや……少しやることがある」
「やること?俺、何か手伝おうか?」
 俺がそう言うと、ミンクは目を閉じ、鼻で笑った。

 外からチェーンソーで木を切る音がする。
 確かに俺に手伝えることはなさそうだった。工具は仕事でそこそこ使っていたけど、チェーンソーなんて生まれてこのかた触ったこともない。
 何を作っているのかわからないけど、ずいぶん大きな丸太を切っているのが窓から見えた。
「後で聞いてみよう……」
 俺はミンクの大きなシャツをガウン代わりに羽織って、居間の長椅子に寝そべっていた。ミンクにそうしてろと言われたからだ。
 やっぱりまだ本調子じゃないのを見抜かれていた……。
 おとなしく従っているけど退屈でしかたがない。思えば子供の頃風邪をひいたときもこんな感じだったな。元気は戻っているのに、婆ちゃんには寝てろと言われて。

 ……でも子供の頃より、いまのほうが厄介かもしれない。
 退屈よりも、もっと持て余しているものが体の奥にある。
「ミンク……」
 聞こえないとわかっているから、俺は声に出して呟く。
「ミンク………」 
 もう一度呟いて、シャツに残るミンクの匂いを嗅ぐ。 
 甘い残り香と一緒に俺は「あのとき」の記憶を反芻した。
 ミンクの掌と、唇の熱さ。俺の体に埋め込まれたミンクの脈動。想い。泣きたくなるような喜びというものを、俺はあのとき初めて知った。

けれど。
 俺が寝込んでから今日までの間、ミンクは「そういう」意味で一度も俺に触れていない。
 もちろん病人相手にそんなことできないだろうけど……。
 キスもしてくれない。俺が寝つく前に頭を撫でてくれるぐらいだ。
 以前ならそれだけでも充分嬉しかったはずなのに。自分の欲深さが嫌になる。
 
 ……いまミンクを求めたら、また体に障ると言われるだろうか。
 ミンクは、俺がミンクの自制心を壊した、と言っていたけど、ミンクが俺をがむしゃらに求めるなんてことあるんだろうか。
 ミンクはとてもストイックな男で……自分を律することができる男だ。なのに俺が無理を押してミンクに抱かれて寝込んだから、慎重になっているのかもしれない。
 でも、そろそろ我慢ができなくなっている。
 ミンクが……欲しい。何度でも欲しい。
 ミンクが求めてくれたら、俺はいつだって体を開くのに。

 もう一度ため息をついて、思った。

 自制心を壊されてるのは、たぶん、俺のほうだ。

  
 夕食は何が何でも俺が作ろうと、ミンクが戻ってくる前に勝手に支度を始めた。ここ数日は世話になりっぱなしだったし、実際じっとしているより動いてるほうが、体が生き返るような気がした。空元気じゃなく、確実に朝より体調はよくなっていた。
 俺が食欲旺盛なのを見て、ミンクはほっとした……ように見えた。俺を見るミンクの眼差しがなんとなく柔らかい。
 だからなのだろうか。
 食後のコーヒーを淹れたあと、ミンクは居間のテーブルに、厚い表紙の本を数冊置いて、俺の隣に腰掛けた。
 俺がぼんやりとミンクとその本を見比べていると、ミンクは木製のケースから何かを取り出した。見るとそれは、古めかしい黒縁の眼鏡だった。
「アンタ、眼鏡するんだ……!」
 俺が驚きを隠さずにそう言うと
「本を読むときだけだ……」
 静かに言いながらミンクは眼鏡の蔓を両耳に引っ掛けた。いまのミンクは碧島にいた頃よりずいぶん雰囲気が違うけど、眼鏡をかけると、なんていうか……学者のような印象になる。
「スクラッチの連中が見たら、驚くだろうな……」
 俺は軽口を叩きながら、ミンクの横顔にこっそり見蕩れていた。そしてミンクがこんな寛いだ姿を俺に見せてくれたことが……嬉しかった。
 ミンクが俺の横で本を開く。
 ミンクの肩越しにその本を覗きこむと、この国の言葉がびっしりと並んでいて俺には到底読めそうになかった。
「なんの本?」と尋ねると「古い物語だ」とだけミンクは言った。
 その本は古く、何度も読み返されたような跡があった。
「好きなんだ。この本」と俺が言うと
「……習慣だ……。馴染みのある字面を追うと、気分が落ち着く」
「へえ……」
 言いながら俺はミンクの邪魔にならない程度にそっと肩に身を寄せた。
 ミンクはチラリと俺のほうを見ただけで、そのまま黙って肩を貸してくれた。
 穏やかな空気のなか、俺はひそかに甘い期待を抱いていた。
 もしかしたら……そのうちページを繰るミンクの手が、俺のほうに伸びてきてくれるかもしれないって。
 今夜は俺に「休め」と言わず、そばにいさせてくれるのは、ミンクにも俺を求める気持ちがあるからかもしれないって。
そんなことを思いながら、俺は目を閉じてミンクにさらに凭れかかる。
 自分の鼓動とミンクの温もり……それとパラパラとページをめくる音が心地いい。
 心地よすぎて……俺はいつの間にか眠ってしまっていたらしい……。

 
 気がつくと───俺は自分の部屋のベッドに寝かされていた。

 慌てて上体を起こしてあたりを見回す。薄闇のなか、ベッドサイドにいつものようにホーローの容器が置いてあった。手を伸ばすと、中に張ってある湯はすっかり冷え切っている。
 おそらくいまは夜中近い時間なんだろう。
「………はあ……」
 俺はがっくり肩をおとしてため息をつく。わずかに残った薬草の香りがほんのり鼻先を掠めた。
「馬鹿か……俺」
 久しぶりにミンクに触れていられた時間だったのに。
 力が抜けて、俺は倒れこむように枕に頭を埋めた。そのまま目を閉じてみたけど、眠気はまるでやってこない。沸いてくるのは、体の奥がそわそわとするような欲求だけだった。
 俺はそれをなだめようとして、自分の下肢に手を伸ばした。
 自慰は久しぶりだし、病みあがりは敏感になっているはずなのに、しばらく擦っても快感は一定のラインを越えなかった。まるで穴の開いた風船に空気を吹き込んでいるようで、少しでも手を緩めるとすぐに萎む。
 しばらく弄っていたものの、だんだん空しくなってきて……やめた。
 俺が欲しいのは「それ」だけど、たぶん「それ」だけじゃ駄目なんだ。
 欲しいのは……ミンクが与えてくれるもの。
 俺はベッドサイドのコイルに手を伸ばして、正確な時間を確認した。日付はもう変わっていた。
 こんな時間だから、たぶんミンクはもう寝てしまっているだろう。
 ミンクを起こしてまで通したいわがままじゃない。
 でも。
 だからせめて……一緒のベッドで眠るだけでもしたいと思った。
 ミンクがそばにいてくれるだけでも、たぶん俺は満足できる。
 起こさないようにこっそりベッドに入るだけなら……怒られないよな?

 朝がきたらまた馬鹿と言われて呆れられるかもしれないけど。



  

 そっとミンクの寝室のドアを開けると、やっぱり部屋は真っ暗で、ミンクは壁のほうを向いて寝ていた。
 足音をたてないように静かに近づき、ベッドの傍に立つ。
「……ミンク……」
 小さく声をかける。けれど返事はない。
 身じろぎもしなかったから本当に眠っているんだろう。
 俺は布団の端をそっと持ち上げ、ベッドの中に身を滑らせた。
 このベッドはシングルで、男ふたりにはちょっと窮屈だ。だから俺はミンクの背中に張りつくように身を寄せた。
 温もりとなじみ深い匂いに包まれて、安堵の息をつく。
 ミンクの寝息は安らかで、心音は心地よくて、これならきっとすぐに眠れるだろうと俺は目を閉じた。
 シンとした部屋に俺とミンクの呼吸がシンクロする。
 けれど……眠気はやっばりやってこなかった。
 眠くなるどころか、ミンクと触れ合っている部分が鋭敏になって、じわじわ体の奥に熱が熾る。
 焦りを感じて身じろぐと衣擦れがさらに刺激になって……気がつくと俺のそこは完全に勃ちあがっていた。
「うわ……」
 スプーンを重ねるような形で寄り添っていたので、俺の勃起がミンクの背に摺りつけられていた。これは……いくらなんでもまずい。
 俺はミンクから離れようと、せめて背中合わせになるようにと、もぞもぞと身を捩った。
 そのとき。
「おい───」
 突然闇のなかで恫喝めいた声が響く。
「ひ……っ!」
 俺の喉が笛のように鳴って、全身が硬直した。
「……何をやっている……」
 俺に背を向けたままミンクが低く呟く。
「お……起きてたんだ……?」
「起こされたんだ……」
 語尾にため息を乗せてミンクがゆっくりと体の向きを変えた。乱れた髪の間から覗く目が、猛禽類のように光っていて恐ろしかった。
「あ、あの……ごめん。ミンク……起こすつもりはなかったんだけど……」
 肩を竦めて上目でミンクを伺うと、彼は俺をしばらくじっと見つめ、やがて呆れたように長い息を吐く。
「まったくお前は……猫の仔か?」
 右手で頬杖をつき、ミンクは険しい目つきで俺の顔を覗き込む。
「ね……猫?」
「すり寄ってきたかと思えば寝入り、寝ていたかと思えば寝床に潜り込んでくる。次はなんだ?毛玉でも吐くか?」
 言いながらミンクは左手を俺の下肢に滑らせ、まだ萎えきっていない俺のものを布地の上からわしづかみにした。
「あ……っ!」
 そのまま、俺の容を確かめるように指を動かす。それだけであっという間にそこは硬く張り詰めた。
 さっき自分で触っていたときは、まるで火がつかなかったのに……。
「ん……んぅ……」
 甘ったれた声が鼻から抜ける。
「……まだ、たった5日だぞ?これしきも我慢できねえのか?」
 俺をからかうでもなく、囁くように諭すようにミンクが言う。その口調にミンクが俺の体のことを心配しているのが読み取れた。
「できない……。それにこうなったのも…体が元気になった証拠っていうか……」
 俺が言い訳めかしてそう言うと、ミンクは黙り込み、やがて無言のまま左手を俺のズボンのなかに滑り込ませてきた。
「ミン……ク……」
 望むものを与えられる悦びが一瞬、体のなかを駆け抜けた……けど。
 俺のものを擦るミンクの手は力強く規則的で、愛撫というより追い立てるような動きだった。
 気持ちいいけど……戸惑う気持ちのほうが強い。
「あ……っ…ミンク…?」 
 その意を口調に込めて俺はミンクを見上げた。
 ミンクは俺を静かに見つめ、やがて目を伏せ
「吐き出して……楽になれ」
 そう言われて俺は言葉を失う。
 つまりミンクは……俺の「性欲」を「処理」しようとしている……?
 思ったとたん、鈍い怒りが湧いて、俺はミンクの手から逃れようと身を捩った。
「や……嫌だ……!」
 俺の熱を扱く左手を俺は両手で制して、ミンクを睨みつけた。
「……こうして欲しいんじゃねえのか……」
「それは……そうだけど……それだけじゃ嫌だ……」
 遠まわしに言ってみたけど、ミンクには俺が何を欲しているかわかっているはずだ。
「貪欲だな」
言葉とは裏腹に、口調に嘲りの色はなかった。むしろ優しささえ感じる声音だった。
「そうだよ……。けど、アンタは……どうなんだ?」
 ミンクは俺を欲してないのか……?
 夜中にいきなり起こされて「その気」になっていないかもしれない。もしそうだったら俺はただの迷惑な奴だ。

 でも……。
 自惚れかもしれないけど、確信があった。

 俺は体をずらしてミンクの懐に潜り込んだ。ミンクの胸板に鼻先をすりつけて……右手をミンクの下肢へと伸ばした。
 そっと布地の上から触れる。
 そして、俺が触れたそれは……俺と同じに、熱く硬くなっていた。
 それまでそこには一度も触れていなかったから、生理的な反応じゃないはずだ。
「ほら……アンタだって……」
 俺はミンクを見上げて勝ち誇ったように言った。ミンクは伏し目がちに俺を見て、観念したようなため息をつく。
 頬杖をついていたミンクの右手が、俺の肩にまわって抱きしめられる。左手は俺の腰に。そうしてミンクの体温が俺の体を包み込む。
「……一度や二度じゃ済まねえぞ……?」
 ミンクが俺の髪に顔を埋めて、そう呟く。一瞬怯むような気持ちになったけど、俺もミンクのシャツの胸元を握り締めて「いいよ……」と返す。
「…………」
 ミンクが息を呑む気配がして……次の瞬間、俺は顔を上向けられミンクに唇を塞がれていた────

 お互いの寝巻きをベッドに脱ぎ落として、俺たちは裸で絡み合った。
 ミンクの大きな掌が、俺の髪を指で梳くように撫でる。感覚がなくなっても、撫でられると気持ちいいことを俺は初めて知った。
 ミンクが俺の首筋に舌を這わせ、ゆるやかにうねるミンクの髪が俺の胸元にかかる。
 俺もそっと手を伸ばし、ミンクの髪に触れ、指で梳いた。
 ミンクの髪は柔らかくはないけど、コシがあって指通りが気持ちいい。
 そして俺は、こんなささやかなことにも、感動を覚えていた。ミンクに触れるという行為は、ミンクを知るということと同じなんだと思った。
 
 もっと触れたい。
 もっと知りたい。
 そして……俺に触れてほしい。俺をもっと知って欲しい。
 そう思いながら俺はミンクの体にしがみついた。
「あ……っ…!ミン……ク……」
 ミンクの唇が俺の乳首に触れて、乳暈のふちをなぞるように舌が動く。
 胸を反らせて喘ぐと、そこをきつく吸われた。
「う……んんっ……」
 不思議なんだけれど……弄られているのは乳首でも、快感は下のほうに溜まっていく……。体中の快感のすべてがそこに繋がっているんじゃないかと思うくらい、触れてもいない俺のそこは、熱をもって硬くなっていく。
「ミンク……」
 俺が目で懇願すると、ミンクは焦らすこともなく、右手を腿の付け根へと滑らせた。そそり立つそれがそっと5本の指でくるまれる。そんなやんわりとした刺激でもいまの俺には過ぎたものだった。
「あ、あ……っ…!」
 逃げたいのか、もっとして欲しいのか、自分でもわからずに俺は腰をくねらせる。くびれの部分をきゅっと握られて、絞られたみたいに先端に透明なものが溢れる。
 それを塗り広げられて、さらに上下に擦られる。けど、その動きはさっきのように追い立てるようなものではなく、熱を篭らせるような、どこかもどかしいものだった。
 ミンクが俺の額にキスをして、それからゆっくり俺の体をうつぶせにした。腰を少し持ち上げられて尻の狭間にミンクの指が触れてきた。
「ん………」
 温い滑りと花の香り。初めてのときに使った、あの練り香を塗られているらしい。
 指が一本潜りこんでくる。緊張に似た違和感があるだけで特に痛くはなかった。
 枕に片頬を押しつけながら、俺は目を閉じ、中の感覚を追った。指がぐるりと輪を描き、二本に増やされ、左右に広げられる……。
「あ、ああ…あ、あ……ぁ」 
 自分の体がミンクの動きに従って開かれていく。蕩ける───
「ミンク……っ…」
「蒼葉………」
 互いの名を呼ぶ声が、偶然に重なった。肩ごしに振り返ると、俺に覆いかぶさるミンクの顔が間近にあった。俺を見つめる金色の目は、真摯で……ほんの少し逡巡に揺れているように見えた。
「本当に……大丈夫か……?」
 そう言って俺のうなじのあたりを舐めた。
「ひ、うっ……」
「お前は本当に……向こう見ずで無鉄砲で、どうしようもねえ……」
 そのまま耳に熱い呟きが吹き込まれる。
「いいか……?辛くなったらそう言え。いらねえ我慢はするんじゃねえぞ」
「大丈夫だって……そんな柔じゃないし……」
「どの口がそう言う……」
 ミンクの苦笑めいた吐息が首筋にかかる。
 それは、もちろん俺が寝込んだことを指している。
「あれは……風邪ひいたのは確かだけど……キャパオーバーもあるっていうか……」
 言いかけて……恥ずかしくなって口ごもる。
「なんだ、それは?」
 囁くようなミンクの問い。促されて恥ずかしくて、俺は思わず枕に顔を埋めていた。
「……アンタに抱かれて……嬉しすぎて……」
 そのままもごもごと、枕に言葉を吸い込ませる。「クッ」と肩口に吐息がかかる。ミンクが……笑ったらしい。
「知恵熱か?本当にガキだな」
 そう言われて、顔が熱くなった。なかばヤケクソになって俺は言葉を続ける。
「だから……!俺が寝込んだの俺の勝手でアンタのせいじゃないし……アンタはもっと、俺を好きにしていい……」
「………」
「アンタが俺を抱きたいって思ったら……抱いてもいい」
「…………」
「違う………抱いてほしい……」
 自分でも恥ずかしいことを言ってる自覚はある。また……笑われてしまうだろうか…。俺はおそるおそるミンクを振り返ろうとして……できなかった。
「わっ……!」
 ミンクの逞しい腕が、俺を強く抱きすくめてきたからだ。
 右手が俺の首に回され、左手が腹をくぐり、そのまま腰を持ち上げられる。
 そして尻の狭間に熱く弾力のあるものが……ミンクの熱があてがわれた。
「あ………」
 蕩けた孔がミンクの先端を飲み込んでいく。飲み込むごとに広がっていく。信じられないほどの熱と質量が、俺の体に打ち込まれる。
「ん…んあっ……あぁ……っ……」
 わずかな痛みと圧迫感、むず痒さにも似た快感。それらが混ざり合って、俺の中にミンクが染み込んでいく……。
「あ……あっ……はあぁ……」
 初めてのときも強く感じた、泣きたくなるような悦び。全身がゾクゾクとなって……身も世もない声がでる。
「…………っ」
 俺を穿つミンクの動きが止まり、荒々しい吐息が俺の首筋に落ちた。俺のなかに……ミンクの全部が入っている……。
「蒼葉………」
 名前を呼ばれて、俺はゆっくりと肩越しに振り返った。
 俺を見下ろすミンクの目──さっきと違って捕食者のように獰猛に見える。
だけど、恐ろしくはない。その目は俺に欲望を向けている目で、だから嬉しいし……興奮する。
 やがてミンクがゆっくりと動き始めた。
 引くときは焦らすように、突くときはそのたび角度を変えて。
「く、ん…っ…はあっ……あ、…あ、ん……」
 これ以上はないくらい根元まで入っているはずなのに、抜かれて、突き入れられるたびにさらに奥底を穿たれているような気がする。
 ミンクの熱が、俺のなかに広がっているからかもしれない。
 ……気持ち、いい……。
 この間は、いっぱいいっぱいだったけど、いまは、ほんの少しそれを味わう余裕のようなものができていた。ミンクが引くときに自分で締めつけると、より気持ちがいいことにも気づいた。
 ミンクが引く。引き止めるように腹に力をこめる。
「ん……っ…」
「くっ……」
 不意をつかれたようにミンクが呻き、その声に俺も煽られる。
「気持ち、いい……?」
 荒い息の下、俺がそう言うと、仕返しのように強く揺さぶられた。
「ああ……っ!」
 ビリッと、電流のような痺れが腹の奥に走った。立て続けに、二度、三度。
 「んうう…っっ……っ……」
 俺は枕を両手で握って、その強すぎる刺激に耐えた。けれど俺のなかを行き来するミンクの動きはどんどん激しくなって……俺はいつの間にか泣くみたいな声をあげてしまっていた。
「ミンク……ミンク…っ……!」
「いい…のか……?」
 問いかけるミンクの声も、荒く、掠れている。
「いい………」
 言いながら、本当に涙を流している自分に気づく。体の奥にこみあげてくるものがあって、もうどうしていいのかわからない。
 ミンクの手が俺の勃起をつかみ、追い討ちのように擦りあげる。
 俺は枕に顔を埋めて、いやいやするみたいに首を振った。
 押し上げられて昇りつめる……。
「あっ……あああぁぁ……っぁ!!」
 涙とよだれと嬌声を枕に吸い込ませて……俺はイッた。
 イく瞬間、ひときわ自分の奥が引き絞られて、ミンクが小さく呻く。
 小刻みに揺さぶられ、中に熱いものが広がるのを感じた。……ミンクもイッたみたいだった。
 荒い息とともに、ミンクが俺の背に覆いかぶさってきた。熱くて汗ばんだ肌が気持ちいい。
 ふと薄目を開けると、肩口にかかる俺の髪とミンクの髪が絡まりあっているのが見えた。
 いま俺たち、全身でくっついてるな……。
 そう思って、おかしくなって俺は笑った。
 笑いながら、その髪を手にとって、キスをした。

 カンカンと木を叩く音が外から響いている。
 
 その音で目を覚まし、俺は慌てて体を起こす。
 寝ていたのはミンクのベッドで、俺ひとりで占領していた。窓から差し込む光は早朝どころじゃない眩しさだ。
「やばい……朝メシ……」
 俺は急いで着替えて台所に向かった。今日こそちゃんと作ろうと思っていたのに……。
 時すでに遅く台所のテーブルには、ひとり分の朝食が用意されていた。
「あー…グダグダすぎる……」
 自分の失態に呆れて、片手で顔を覆う。その間にも木を打ちつける音が外から響いてくる。
 ミンクが昨日の作業の続きをしているんだろうけど……そういえば何を作っているんだろう……。
 気になって、様子を見に外に出た。


 
 そこにあったのは……ベッドだった。
 正確に言うとベッドの枠組みだった。ヘッドボードと足とそれを繋ぐ枠の部分だけ。
 それが裏庭にどんと置いてあった。
 
「何……作ってんの……?」
 釘を打ちつけていたミンクが、呆れたような顔で振り返る。
「見てわからねえのか」
「いや……ベッドだと思うけど……なんで?」
 ミンクはひとつ息をつき立ち上がった。そして俺の前まで歩み寄り
「いまのベッドじゃ窮屈だろうが」
 俺を見下ろして、そう言った。
「……え………?」
「お前は、寝相が悪い」
「えええ……!!」
 そんなことはないだの、あとで蓮に聞くだの、うろたえる俺をミンクはじっと見つめて、やがてニヤリと笑った。
「お前……嬉しそうだぞ」
「え?」
 慌てて両頬を手で覆う。いま自分がどんな顔をしているかわからないけど……ニヤけていてもおかしくない。
 だって、俺はいますごく嬉しい。
 ミンクが、ふたりの寝床を作ってくれた。
 俺が隣で眠ることを許してくれた。
 俺はミンクの温もりから……離れずに済むんだ。
「うん……すげー嬉しい。ありがとう……」
 俺がミンクを見上げて笑うと、ミンクも笑ってくれた。今度は人の悪い笑みじゃなく、目を細めただけのやさしい笑顔だった。


 
 ふわっと甘くて青い匂いが鼻を掠めた。
 ミンクの匂いだろうか。木材の匂いだろうか。
 どっちでもいい。

 今日からはこの匂いが、俺たちの寝床を満たしてくれるはずだから。
 
 

 
 
 
 
 
 

 

 
 

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コメント

あぁ…!リコネのミンクさんのその後のSSありがとうございます。

蒼葉くんの体を薬草でいたわってくれるなんてミンクさんさりげなく優しい…。

一度想いが通じあったからといって、いきなりラブラブにはならないところがこの二人らしくって大変よかったです。

きっと今後もこの二人はこんな風にじわじわ距離を縮めていくんだと思います。

投稿: ねり | 2013年5月30日 (木) 12時17分

ありがとうございます~!
ミンクさんの、蒼葉をどう扱っていいか計りかねてるところとかがけっこう萌えポイントだったので、そのへん書きたいなーと思いました。

投稿: 後藤羽矢子 | 2013年6月 3日 (月) 12時01分

公式と同じくらい、感動して萌えました。
ありがとうございます。×500万回

投稿: ミナ | 2014年2月14日 (金) 17時12分

ありがとうございますー!
ミンクさんと蒼葉ちゃんの幸せ生活はいくら妄想しても飽きませんね!

投稿: 後藤羽矢子 | 2014年3月 1日 (土) 12時15分

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