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2012年4月10日 (火)

アインファッヘ

 夕刻の青柳通りは今日も賑やかだった。

 帰途につく人たちと、これから街に繰り出そうという人たちで通りはごった返している。
 毎日ほぼ帰宅派の俺も、この時間の活気は好きだ。夕暮れのオレンジと点りだす灯りが街をいっそう明るく見せている。
 けれど、いま、家路へと向かう俺の足取りは微妙に重かった。

「はあ…婆ちゃんにどこから話せばいいのかな……」
 のろのろと地面を踏む自分の足先を見ながら、俺は呟いた。
「いんじゃね?全部話せば」
 他人事っぽく返しをいれてくるのは、俺の横を歩くノイズだ。
「何だよ。その大雑把さは……」
 言いながら、俺はノイズを軽く横目で睨む。けど。
「別にホントのことだし」
 そう言って軽く流される。柳に風ってこういうのを言うんだろうな……。
 俺はため息を内心だけにとどめて、もう一度横目でノイズを見る。
 
コイツが顔のピアス全部はずして、ビシッとしたスーツで現れたときは、別人かと見紛うほどだったけど、いま両のポケットに手を突っ込んで、俺と一緒にゆるゆる歩いている姿は、以前のノイズと全然変らない雰囲気だ。
 そう。
 ほんの数時間前、3ケ月も音信不通だったノイズがいきなり店にやって来た。
 そしていきなり一緒にドイツに来てくれと爆弾発言。しかも、芳賀さんやガキどものいる前で。
 最高に逃げ場のない状況で、俺はなし崩し的にその申し出を受け入れてしまった。
……いや、断る気は、最初からなかったけど……。

 そして効率重視のノイズに急かされて、俺はその日のうちに婆ちゃんにドイツに行くことを告げることになっていた。
 今朝、普通に飯食って仕事に出かけた孫が、帰ってきていきなり男とドイツで暮らしますとかって、それどうなんだって自分でも思う。
「あの婆さんなら、それぐらいで驚かないだろ」
 ノイズが妙に穿ったことを言う。
「まあ……そりゃそうなんだけどさ……」
 確かに婆ちゃんは驚かないと思うし、反対もしないと思う。
 けど、俺はずっと婆ちゃんに心配かけっぱなしだった。
 だから婆ちゃんが安心して納得できるように説明したい。
 でも、俺はあんまりそういうのが得意じゃない。婆ちゃんが察しのいい人なんで、俺もそれに甘えていた。自分のことなんだからちゃんと言わないとな……。
 俺が頭の中で少ないボギャブラリーを捏ねくって呻いていると、
「あのさ」
 そっけないノイズの声。
「何?」
「その話ってどれぐらい時間かかんの?」
「はぁ!?」
 何だよ、さっきからその他人事っぽいノリは!
「わかんねぇよ!そんなの!役所じゃねえんだから。つかお前のことでもあるんだからさ。ちゃんと婆ちゃんに挨拶ぐらいしろよ!?」
 婆ちゃんとノイズはすでに何回か顔を合わせているけど、不法侵入と乱闘のコンボとか拉致とか色々ありすぎて挨拶どころの騒ぎじゃなかったし。
  婆ちゃん的には、ノイズどういう印象なんだろう……。メシ食いに来いって言ってたぐらいだし、悪い印象は持ってないだろうけど……。
 俺が不安になっている横で、ノイズがぽつりと呟く。
「それで、話終わったあとは?」
「へ!?」
 質問の意図が見えなくて、俺は間抜けな声をあげてしまった。
「話終わったあと、なにすんの?」
「いや……まあ、婆ちゃんメシ食えって言うだろうから、メシ食って、茶とか飲んで……そのあとは部屋に戻って……ていうかお前はどうすんの?うち泊まるの?」
 言いながら、横目をやると、そこにノイズの姿はなかった。
 慌てて振り返ると、ノイズは数歩後ろで、立ち止まっていた。何かを考えているような表情で遠くを見ている。
「なんなんだよ。お前、さっきから……」
 いいかげんイラッときて、俺は大股数歩でノイズの傍に寄る。
「そんな上の空なら今日はもう……」
 言いかけて、言葉に詰まる。ノイズが俺の手を、ギクッとするほどの力で掴んできたからだ。
 俺の手を掴んだまま、ノイズがじっと見据えてくる。その目がかすかに怒りを含んでいるように見える、けど……なんで?
「ノイズ……?」
 俺が疑問を口に乗せようとしたとき。
「待てない」
「え?」
「そんなに、待てない」
 言うなり、ノイズは踵を返し、俺の手を引いて、いま来た道をすごい勢いで逆走し始めた。
「おい…!ちょっと……ノイズ!」
 足がもつれて転ばないよう、俺も歩調を合わせるしかない。行き先も目的もわからないまま手を引かれて走っていると、ノイズがいきなり横道に入る。通りの入り口にでかでか掲げられたR-18の看板。ピンクや赤のケバいネオン管で彩られたその界隈は……いわゆるアダルトエリアだ。

 地元民だから、存在はもちろん知ってたけど、俺はそこに立ち入ることはほとんどなかった。たまに配達のときの近道に使うぐらいだ。日中に見るときとは、まるで違う通りの顔に、俺の目は左右に泳ぎまくっていた。
 なのにノイズのほうは、まったく迷いのない様子で通りを進んでいく。
「こっち」
 ノイズが小さく呟いて、脇道へと入る。
 極彩色のネオン街に比べると、その通りは暗くて静かだった。白やレンガ造りの、オモチャの城みたいな建物が並んでいて、薄闇の中、控えめな色の看板が「空き室」と書かれた光を放っていた。
 
 ここ……ラブホ街だ……。
 そこで、やっと、俺は、ノイズの真意がわかって、顔に血がのぼる。
「待てない」って……そっちかよ。
 エロガキめ……!
 俺がうろたえているうちにも、ノイズはホテルの門をくぐり、無人のフロントでタッチパネルを操作して、自販機みたいに出てきた鍵を受け取っていた。
 その流れるような手並みを、俺は呆然として眺めていた。
 正直、俺はこういう場所に来たことがなかった。フロントが無人なことも、部屋をパネルで選ぶことも知らなかった。
 微妙に屈辱感を感じながら、俺はノイズに手を引かれてエレベーターに乗り、押し込まれるように部屋に入った。
 
 部屋は案外普通だった。どんな妖しい造りになってるのかと思ったけど、ダブルベッドがあって、2人掛けのソファーと一人掛けのソファー、間にサイドテーブル。部屋の隅に小さな冷蔵庫と自動販売機らしいもの……。ビジネスホテルとたいして変らない雰囲気だった。
「お前さあ……こういうとこ、よく来んの?」
 部屋の中をぼんやりと見回しながら、俺がそう言うと、ノイズはスーツのジャケットをソファに放りながら「一人でなら、たまに」と答えた。
「一人でって……なんで?」
「この辺りでライムやってたときもあるし。帰んのめんどくせーときとか、そのまま。メシも頼めば持ってきてくれるし」
「それってビジホじゃダメなのか?」
「フロントに人がいて、ウザい」
「はあ……」
 なかなか理解しづらい理由だな……。
「それより」
 呟きを聞くと同時に、俺はノイズに正面から抱きすくめられていた。
「ちょっ……!」
「アンタ、冷たい」
 ぼそりと、だけど咎めるような呟き。
「えぇ!?」
 俺がいつ冷たくしたっていうか……お前のほうがワケわかんなかっただろ!
 って言い返したかったけど、ノイズが俺の肩口に顔を埋めてきて……それがくすぐったくて、言葉が出ない。
「久しぶりに会ったのに、アンタ全然いつものままだし。なんかやりたくもなさそうだし」
 言葉と一緒にノイズの息が首筋にかかる。
「って……婆ちゃんに話しろって言った、の、お前だろ……?」
「もっとすぐ済むかと思ってた」
「あのな……」
 俺は呆れた。けれど、口から出たのは自分でも意外なほど優しい声音だった。
「……そんなにしたかった、のか……?」
「うん……」
 篭るような呟きにほんの少し、胸が鳴る。コイツ素直なとこは素直だよな……。
 そして俺のほうも、ノイズと再会した実感が、今更じわじわとぬるま湯のような暖かさで全身にひろがるのを感じていた。
 数時間前の再会のときは、あまりにも立て続けに色々起こって、脳の処理が追いつかない感じだったけど。
 そうだよ。
 俺、ずっと、会いたかったんだ。
 俺もノイズの背中に両手を回し、体の熱と手ごたえを確かめるように撫でさすった。
 もう会えないかと思っていた存在が、いま、また手の中にある……。
 そう思ったら、なんだか急にジンときてしまった……。
 
 ノイズが顔をあげ、俺の目を見つめる。
 泣いてはいないけど、泣きそうな気分になっているのを悟られたくなくて、俺は自分からノイズの顔に唇を寄せた。
 照れ隠しに、わざと唇を尖らせて、チョンとノイズの唇をつつく。
 少し顔を離して、今度はそっと。
 ノイズが顔を傾けて、それはすぐに食むようなものに変る。
「んっ……ふ……ぅ」
 舌が絡んで、互いの吐息が口の中を行き来する。
 柔らかくて、熱くて……甘い。
 いったんノイズが顔を離して、見せつけるように舌を出した。顔だけじゃなく、そこにもピアスはもうなかった。
「ここも……はずしたんだ」
 言いながら、俺は自分の舌先でノイズのそれをツッと舐めあげた。ノイズの体が少しビクッと震えるのがわかって小気味いい。
「あったほうが……よかった?」
 ノイズが同じように俺の舌先を舐る。舌って……先っちょのほうが気持ちいいんだな……。
「いや……わかんねえし……でも、ないほうがスベスベしていい……かも…」
「そう……?」
 俺たちはベタベタと飴のようなキスをくり返した。だんだん頭の中まで飴のように融けてきて、気がついたら俺はベッドに押し倒されていた。
 ノイズの手が俺のジャケットを剥ぎにかかる。俺はそれを制して「自分で脱ぐから……お前も……」とちょっと呂律の回らない舌で言う。
 
 病院で初めて体を合わせてからノイズが退院するまでの間 、俺たちは何度もそういうことをした。けど、俺はいつも下だけしか脱がなかったし、ノイズも入院着を着たままだった。
 やっぱり鍵かけてても、誰か来るかもしれないと思うと、そうそう開けっぴろげにはなれなかった。
 でももう、そんなこと気にする必要はないんだ。

 お互い自分の服をむしるように脱いで、俺たちは初めて素裸で抱き合った。
 
 触れ合う素肌は、温かくてサラサラしてて気持ちがいい。
 ノイズは俺の胸板あたりに頬擦りしながら、肩から二の腕、指の先にまで、自分の手を這わせる。指の又をくすぐるようにノイズの指が絡んで、ぎゅっと手が握られる。
 俺も空いたほうの手で、ノイズの背に手を回して、肩甲骨から腰までゆっくり撫でる。
 まるでお互いの体をサーチするみたいに、俺たちは、手を這わせ、くちづけて、匂いを嗅いで、互いを感じ合った。
「なんか……すげえな……」
 ため息のように呟くノイズに俺も吐息だけで「何?」と返す。
「触られるのも……いいけど……触ってる、掌のほうも……気持ちいい……」
 ノイズは目を閉じて、感極まるように長い息を吐く。俺の体も、掌も、ノイズに「気持ちいい」を伝えられていると思うと……すごく、嬉しい。
「俺も……気持ちいい……ノイズ……んあっ……!」
 ノイズの手が俺の下腹を滑って、血が集まって硬くなったそこを握りこんできた。
 すぐさま俺もノイズのそこに手を伸ばす。顔や舌と同じようにそこもピアスがはずされていて、手を上下させると感触が滑らかすぎて……ちょっと違和感があった。
 俺がそう感じたのを目ざとく悟ったのか、
「ここは残しといたほうがよかった?」
 ノイズが耳に息を吹き込むように囁く。
「わかんねえって……!無いほうで、まだしたことないし」
「……じゃあ、いまから、比べてよ」
 言いながらノイズがベッドの宮棚に手を伸ばして、何かを取り出した。
 一見アメニティのシャンプーみたいなパウチを、ノイズは端を噛んで器用に切り開けて、中から出てきた液体を指に滴らせた。
「それ……ローション?」
「ん」
「そっか、そういうの使えばいいんだ……」
「まあハンドクリームでもいんじゃね?アンタが最初それ持ってきたとき、ちょっとウケたけど」
「………」
 なんかいちいち自分の経験値の低さが露呈して、気恥ずかしい。
「あの……俺が自分でやるから」
「だめ」
 ノイズは左手で俺の脚を抱え、ローションで濡れた右手を、俺の尻の窪みに滑りこませてきた。
「アンタの中、触りたい」
 ノイズの手で温くなった液体が、孔に塗りこめられて、やがて指が侵入してくる。
「うっ……ぁ……っ」
 いつも解すのは自分でやっていたから、他人の指が入るのはこれが初めてだった。
「力……抜いて」
 ローションのせいか、特に痛くはないけど、動きの予測ができなくて……緊張する。
「すご……キツい……」
 興奮にうわずったノイズの声と、小刻みに動く指。同時に煽られて、背筋が痺れた。
「あ、は、……ぁぁっ……んんっ……」
 二本めの指が入ってきて、中を押すように広げられる。緊張と快感で体に力が入る、けれど、その部分はもうトロトロで、抗う力を失っていた。
  指がゆっくりと抜かれ、俺はきつく閉じていた目を開けた。ぼんやりとした視界のなか、俺に覆いかぶさるノイズがいた。興奮に細められた目が、同じように俺を見つめている。
「蒼葉……」
 ため息のように俺の名を呼んで、ノイズは俺の膝を抱え、体を沈めてきた。
 ノイズの熱い塊が、ゆっくりと俺の中をこじ開けていく。ノイズの熱に押し出されるように俺の口から声がこぼれる。反射的に口を押さえると、
「もう……我慢とかする必要ねーし」
 ノイズの手が俺の手を引き離すように取る。
「でも……なんか……ハズいし……あ!…っんくっ……」
 抗う俺にノイズが、思い切り腰を入れてきた。ローションの潤滑のせいか、意外なほどスムーズに根元まで入っていた。
「ふ…ぅ……」
 俺が安堵のため息をつくと、ノイズが顔を寄せてきた。唇を軽く合わせて、そのまま「どっちが気持ちいい?」と、こっちを覗き込むように問いかけてきた。
「……どう……だろ…?無いほうが入れるのは…楽かも……」
 俺的にはすごく真面目に答えたつもりだったのに、ノイズは鼻でフッと笑うと
「なんだよ。つまんねえの」
 そう言って俺の唇を軽く噛んだ。
「つまんねって……じゃあなんて言って欲しかったんだよ……?」
「別に。じゃあ、楽ならさ、俺いっぱい動くから」
「…え…って……!」
 言うなりノイズが、動き出した。俺の腰を両手で抱えて、叩きつけるように出し入れする。
「あ……!!あっ…!!」
 いきなりの強い刺激に、俺の体が逃げようとずり上がった。それを押さえ込むようにノイズがさらに深く侵入してくる。
「あ…っ……ちょ……っ!あ、あ、はあ……!」
「声、聞きたい……聞かせて……」
 突き入れられて、引かれて、引かれるときにゾッとするような気持ちよさがあって。
「ひっ……はあ……う、うっ…ふあぁっ…」
 気がつけば、俺はノイズの背にしがみついて、泣くみたいな声をあげていた。
 サラサラしていた互いの肌は、すっかり汗に濡れて滑っている。二人の腹の間に挟まれて、俺のアレももみくちゃにされている。体の奥から湧いてくる、パルスみたいな痺れを追って、俺はきつく目を閉じ、体に力を篭める。
「っ……く……!」
 ノイズが歯を食いしばるように呻くのが聞こえた。その声が俺をいっそう煽る。
「あっ……も、う……!イく……イキ、そ……!ノイズ……!あ…」
 何かがバチンとはじけて、高いところから下を見下ろすような腹の痺れが一瞬ブワッと全身にひろがって。
「……ぅ……っっ……!」
 俺は背筋を震わせながら、ビクビクと精液を吐きだしていた。
 数瞬遅れて、ノイズが小さく叫ぶように俺の名前を呼んで、体を震わせた。
 ノイズの精液が俺の中でじんわり広がっていくのを、俺はなかなか去らない余韻のなかで感じていた……。

 俺たちは互いの息が整うまで、繋がったまま、重なるように抱き合っていた。
 クールダウンみたいなキスを何回もくり返しながら、やがてノイズはゆっくりと俺から離れ、俺の隣で横になった。
「……ヤバいくらい、よかった……」
「……俺も……」
 しみじみと言い合って、少し笑い合って、ノイズはまた俺の首に手を回してきた。体を引き寄せられ、後ろから抱きかかえられるような形になる。
「ずっと……こうしたかった……」
「……おおげさだな……」
 耳元での呟きがくすぐったくて、俺はちょっと身を捩る。
「アンタがさあー……」
 俺を抱くノイズの手に軽く力が篭った。
「俺が入院してる間、来てくれてさ、何回もアンタとやってさ」
 突然そう言われて内心でうろたえる。
 何を言い出すんだ。コイツは……。
「で、面会時間終わってアンタ帰って、そんで病室で一人で寝てると、すげえヤバくて」
「……何が?」
「……ヤバいくらい、……寂しくて」
「……!……」
 縋るように、ノイズが俺の首筋に顔を埋める。
「あんなの初めてっつーか、あんなのが続いたらマジで死ぬかもぐらい思った。でもアンタはそうでもなさそうなのが、なんかムカつくし」
 後ろから耳を噛まれて、俺は「いっ」と声を出して首をすくめた。
「だから……ずっと、こうしたかった……。アンタと抱き合って、そのまま一緒に寝て……そんで朝までずっといて……」
 吐息と一緒に首筋に当たるノイズの言葉。聞きながら俺は、自分がノイズの孤独をわかっているつもりで、まるでわかっていないことを痛感した。
 ノイズの心の中にあった、どこまでも暗くて無機質な部屋を思い出した。
 親に疎まれて、存在を無いもののように扱われるのも辛いはずだけど、でも、それだけじゃない。
 痛覚が無かった頃のノイズは、その体そのものが彼の心を閉じ込める檻のようなものだったんだ。
 いま、その檻を抜け出すことができたけど……それはそれで途方にくれるものなんじゃないかって……少し思う。
 そんなときに、誰かに傍にして欲しい……それは当然のことだ。
 
「お前さ……もしかして「そのため」にドイツに帰ったの?」
 俺を抱きしめるノイズの手に自分のそれを重ねながら、俺は言った。
「そのため?」
「その……俺と朝まで一緒にいるために……」
言いながら照れくさくなってきた……。これで違うとか言われたらどうしよう……。
 でもノイズは、呆れたような吐息をついて
「それ以外なにがあんの?」
 こっちを懲らしめるように耳たぶを噛んだ。
「いてっ……」
 でもそれは甘噛みってヤツだった。「加減」された優しい痛み。
 俺は、その痛みをとても嬉しく思う。

「お前ってさ……なんかすごいよな……」
「何が?」
「俺と一緒にいるためだけに、ドイツ行って親に頭下げて仕事見つけてさ……。シンプルっていうかストレートっていうか……」
 
 言いながら、俺もそれでいいんじゃないかって思い始めた。
 婆ちゃんに理由説明するのに、言葉を選んで捏ねくり回すこともないんじゃないかって。
 
 コイツが寂しくないように、俺が傍にいてあげて。
 俺が寂しくないようにコイツに傍にいてもらう。
 シンプルでストレートで。
 それで充分なんじゃないかって思う。
 
 俺はノイズに抱きこまれたまま、なんとか腕を伸ばして、ベッドサイドに置いたコイルに手を伸ばした。
「……婆ちゃんに連絡しないと」
 言いながら、ちらりと振り返ると、なんとも微妙な表情のノイズと目が合う。
 憮然としてるようだけど、ちょっと不安そうにも見える。
 ノイズには悪いけど、俺は内心で吹き出しそうになっていた。
 くすぐったい気持ちって……こういうことをいうんだろうな……。
「今日は泊まってくって連絡しないと。無断外泊すると後で婆ちゃんうるさいからさ」
「………!」
 ノイズが息を飲む気配がほんの少し、伝わった。
「婆ちゃんに話すのは明日でいいよな?お前もちゃんと挨拶考えておけよ」
 
 そう言って、俺は婆ちゃんのコイル番号に発信した。
 
 

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