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2008年2月 9日 (土)

アレキサンダー

 国を統べるようになった男に、自分の時間を確保するのは容易ではない。

 時計の針は日付を明日に変えようとしている。
 しかしニホン国の総帥であるシキには、プライベートな時間はタイムテーブルに組みこまれていない。紅褐色の艶が美しい重厚な机を前にして、今も数十枚の書類にペンを走らせている。
 ただ、軍服の上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、雰囲気だけは寛いだものになっている。
 そんなシキの姿を数メートル離れた場所に立ち、部下がひっそりと見つめている──その部下──アキラの姿は姿勢も服装も、いまだ一分たりとも緩んではいなかった。

 シキが息をつき、椅子の背にもたれかかる。
「アキラ」
 ピンと張るような声音。部下としてのアキラを呼ぶ声。
「はい」
「この書類を明日の昼までに狸たちにまわしておけ」
シキが無造作に手渡す書類をアキラは一礼して受けとった。そして踵を返して部屋を出ようとしたが──
「アキラ」
 それは、シキの一声に縫い止められてしまった。
「今日の仕事は、もう終わりだ」
 言いながら、シキはネクタイのノットに指をいれ無造作に解いた。そのままアキラを見る目が、お前も寛げと言っている。
 軽く頭をさげ、アキラも帽子を取り、襟元を緩めた。
 「……戦場が荒野ひとつの時代ならば、もう少し楽だったろうな。少なくともあんな狸どもの力など借りずにすむ」
 本来、孤高を好むシキにとって、今のありようは望むものでありつつも窮屈を感じているのだろう。多くの部下を従え、常に国の内外と駆け引きを続け──
 「飲むか」
 シキは、アキラが出ようとした扉の対面へと顎をしゃくる。
 そこには、もうひとつの扉があり、シキのプライベートルームに続いている。
 もちろんアキラに断る理由などはない。

 この部屋はあの場所に似ている──
 シキのプライベートルームにはいるたびに、アキラはそう思った。
 トシマでシキに捕らわれ、数日を共にしたあの廃墟に似たアパート。
 もちろん内装は似ても似つかない。家具はシンプルではあるが最高品質のもので、アキラがいま腰掛けているソファーも、ほどよい固さで心地よい。
 何がそう思わせるのだろう。
 この空虚に思えるほどの部屋の広さか──カーテンのない窓から差し込む月の光の頼りなさか。
 
 コトンとガラスの触れ合う音がして、我にかえった。
 シキがグラスに酒を注いでいる。
 グラスに注いだ琥珀色の液体を、シキは氷もチェイサーもなしに水のように飲んでいる。
 アキラのグラスには氷がはいってはいるが、それでもきつすぎる濃度だ。アキラはむせないように、慎重に、グラスの淵を舐めるように飲み進めていた。
 一度無理をおして飲みすぎ、シキの前で酔いつぶれたことがあった。
 そのときはシキによって水をはったバスタブに投げおとされた。
 水の中でひとしきりもがき、状況がわからずに呆然とする自分を見て、シキは喉の奥で笑い、その後その場で抱かれた。
 そのときのことを思い出すたびに、自分の失態にアキラは歯噛みする。
 アキラはシキの秘書であり情人でもあったが、そのような失態を甘えで流せるほど公私は混同していないつもりだ。
 
「まだ慣れないか」
 突然の呼びかけに目線をあげると、シキが頬杖をついて自分をみつめていた。フロアランプだけが灯るほの暗い部屋のなか、シキの赤い瞳が燃えるように光っている。
 いつ見ても身体が射すくめられる。一瞬でもその美しさに呆然としてしまう。
シキの瞳に慣れることは、この先もないだろう。そうアキラは思ったが、シキが言ったのは、そのことではなかった。シキが目線の高さにグラスを掲げ、酒について言っているのだと知る。
「……俺は酒に弱いらしいです。こればかりは慣れるのにも限度があります」
 内心の羞恥を気取られないように、うつむきながらアキラは言った。
「総帥におつきあいできないのが申し訳ない。軍のなかには、酒豪の者も大勢います。彼らの半分ほどでもいけるようになればいいのですが」
「馬鹿が」
 シキはソファーに大きくもたれ、鼻で笑った。
「そんな酒の味もわからず、鯨飲するだけの奴らを見習う必要がどこにある。お前はそのままでいればいい。お前の態こそが俺の肴だ」
 言われて頬が熱くなった。酒のせいではない。
 「しかしお前には、もう少し甘い酒が合うようだな」
 シキは立ち上がり、部屋の隅にある内線を使い、どこかに指示を伝えている。
 内線は、直属の部下と生活を管理する従者たちのところに繋がっている。
 指示の内容はアキラの耳には聞こえないが、状況からすれば従者に酒を持ってくるよう言っているのだろう。
 そのような指示も普段ならアキラの役目だ。シキが直々に指示をだすことはめったになく、今頃向こうの人間は慌てふためていいることだろう。

 しばらくすると、部屋をノックする音が聞こえた。
 アキラが扉を開けると、想像したとおり歳若い従者が銀の盆を持って立っていた。
 想像と違ったのは、盆の上にあるのが小さなカクテルグラスひとつだということだ。
 盆を受け取り、シキのもとへ運ぶ。中身がこぼれないよう、そっとグラスをテーブルの上に置いた。
 グラスの中には、乳褐色の液体がはいっていた。
 酒なのだろうが、およそ見たこともない酒で、アキラは自分でも気づかないうちにそれをしげしげと見つめてしまっていた。
「飲んでみろ。アキラ」
 言われて、シキとグラスを交互に見やる。
 毒ではないだろうが、酒の得体の知れなさにわずかに緊張が走る。
「……ありがとうございます。いただきます」
 しかしシキが自分に与えてくれるものなら、毒でもありがたい。
 うやうやしくグラスを手に取ると、ゆっくりとその酒を唇の間に流し込んだ。
 「あ……」
 その酒は、まろやかで甘く、わずかに香ばしかった。
 甘いものはほとんど食べないアキラにもわかる──これは、チョコレートの味だ。
 チョコレートと生クリーム。
 アルコールの刺激はわずかに感じるが、チョコの甘さとクリームのまろやかさに包まれてしまっている。素直に「美味い」と感じた。グラスの半分ほどを一息で飲み、アキラは満足のため息をついた。
「美味いか?」
 シキが言う。口に運んだグラスに隠れてよくわからないが、笑んでいるようだ。
「は、はい。とても」
「アレキサンダーというカクテルだ。俺に似合いの酒だとは思わないか」
 言われて返事に窮した。酒は甘く、菓子のような味わいで、シキに似合っているかといえば、とてもそうは思えない。
 おそらく名前を何かになぞらえているのだろうが、それが何なのかアキラにはわからない。
 語学、軍事の勉強は怠ったことはないが、世の中はまだ自分の知らないことだらけだ。
 アキラは自分の浅学を恥じながらも、「すいません…わかりません」と素直に答えた。
 支配者の赤い瞳を前にして、知ったふりも上辺だけの追従もできるはずがなかった。
 
 しかしシキはアキラに答えをくれず、空になったグラスに酒を注ごうとする。
「総帥。それ以上は、もうお体にさわります」
 さきほど封を開けたばかりの酒瓶は、もう半分以上中身を失くしている。アキラは最初の一杯もまだ飲み干せていなかったので、そのほとんどをシキが飲んだことになる。
「俺は酔わない」
 酒瓶を取りあげようとするアキラの手をシキがつかむ。アキラの体をじんとした痺れが走り抜けた。
「昔からそうだ。俺は酔ったことがない。酒は俺を酔わせられない」
 確かにそうだった。これまでに何度もシキの酒につきあったが、シキが酔っているさまをアキラは見たことがない。どんなに強い酒を飲もうと、まるで火のなかに燃料をくべるようにあっという間に燃え立ってしまう。
 シキの目は高炉の窓で、その赤い瞳は、たぎる火のようだとアキラは思う。
「ただ──」
 シキがアキラの手をとったまま、何かを反芻するように目を閉じ、呟いた。
「一度だけ酔ったことがあるな。勝利の美酒というやつか。あれはなかなかの味わいだった」
 アキラにはシキの言わんとしていることが、すぐにわかった。
 シキはナノに勝ったときのことを言っている──最強兵器といわれていた男の命を奪い、その血と力を奪い、我が身にとりこんだときのことを。

「アキラ」
「……はい」
「お前は俺を酔わせることができるか?」
 言って、シキはアキラの手の甲に唇を滑らせた。
 アキラは力なく首を振った。その仕草がもう秘書のものではないことに、アキラはまだ気づいていない。
 自分はシキを酔わせられない。シキを酔わせることができるのは、戦いだけ。
 強者に向かい、それを捻じ伏せる瞬間こそが彼にとっての酩酊なのだ。
 従僕となった自分には、シキにそれを献上することはできないだろう。仮にアキラがシキに反旗を翻しでもすれば、似たような高揚は味わわせられるかもしれない。しかしシキはそんな茶番は望んでいないだろうし、何よりもアキラにはシキを裏切る気などかけらもない。

「貴方が次に酔うことができるのは、世界を手にしたときでしょう」
 アキラの答えはそれしかなかった。ナノを越える強者は、世界そのものだ。
「俺ができるのは……貴方の支えになることぐらいだ。踏み台でもいい……。貴方が次に気持ちよく酔うことができるよう、俺は力を尽くす…それだけです」
 言い終わるなりアキラの体が竦んだ。シキがアキラの手の甲に舌を這わせたからだ。
「可愛い奴だ。お前は」
 すでに空気は変わっていた。国を統べる者とその部下、ではなく、主と情人──の空気。
「俺はもちろん世界を手にする。しかしお前を踏み台などにはしない」
 シキの舌は手の甲を滑り、アキラの指の又を這う。顔に熱が集まり息が震える。
「酔うときは共に、だ。お前と二人ならさぞや心地よく酔えるだろう」
「総帥……」
「そんな無粋な響きは聞きたくない」
 赤い瞳が咎めるようにアキラを見つめる。
 吐息がせりあがって、うまく言葉が紡げない。それでもアキラは唇でその名を形どる。
「シ」
「キ」
───と。
 シキの瞳が睫毛に隠された次の瞬間、アキラの視界はシキの髪の色に覆われた。

 シーツに頬を摺りよせる。
 冷たい感触がほてった頬に気持ちいい。
 アキラのシャツははだけられ、緩んだネクタイは完全にはほどかれず、輪になって首にひっかかっている。
 無様な姿だとアキラは思う。しかしシキはいつもアキラを全裸にはしてくれない。軍人の部分をわずかに残してアキラを抱くのがシキの趣向だった。
 シキのほうも決して全裸にはならない。アキラの乳首を執拗に舐っているいまも、シャツの前をわずかに寛げただけで、その姿はさきほどと変わっていない。
「……んっ…あ、う……」
 アキラは首を振って、チロチロともどかしい炙り火のような快感に耐えていた。
 シキの右手が、わき腹から腰骨へと滑る。微弱だが走り抜ける電流にアキラが背をのけぞらせた。
 シキの掌は、アキラの腰骨をさすり、付近の肉をつかんだかと思うと太腿、内股と縦横に滑っていく。しかしアキラが一番触れて欲しい部分はたくみに避けている。
「……う、……く」
 自分の雄の部分がさらに張りつめていくのを、アキラは感じた。己を主張し、愛撫をねだるように。
 シキの指がアキラの袋の部分をわずかに掠めた。それだけで短い悲鳴が漏れた。シキの笑いを含んだ吐息がアキラの胸にかかる。それにすら感じて、アキラは身を捩った。
 どこもかしこも。シキが触れている部分はすべて快感を呼び起こし、しかし決してそれ以上の高みは与えてもらえず。
 アキラは目尻に涙をうかべ、荒い息をついた。
「シキ……もう」
 震える声でねだった。
「もう、か。訓練の場では、誰より粘り強いお前なのに」
 シキは呆れるように笑って、身を起こした。しかしそれはアキラを解放するためではなかった。
 ズボンのジッパーをおろし、高ぶった分身をシキはアキラの前に突きつけた。
「奉仕しろ」
 アキラの目に失望はなかった。むしろ潤んだ目はそれを待ち望んでいたようだった。シキの幹に手を添えると、アキラは舌をいやらしく出しながら顔を寄せた。
 先端に息を吹きかけ、くびれに、つっ、と舌を這わせた。シキがかすかに震え、それに呼応してアキラの体も震えた。たまらない気持ちになって、アキラはシキの雄を一気に咥内に含みこんだ。
「うっ……ん、ふぅ、う、う…っ」
 口を塞がれてなお、声が抑えられない。咥内の粘膜すらシキに触れられて悦んでいる。体の中心がざわざわと音をたてている錯覚。波にさらわれてしまいそうな心許なさに、アキラは縋るようにシキの肉茎を吸いたてた。
 「……卑猥、だな」
 シキの呟きが聞こえ、アキラが目線を上向けると、わずかに揺れる赤い瞳とかち合った。
 乱れた黒髪の間からのぞく、長い睫毛に飾られた目。かすかに顰められた眉。
 それだけの表情が、壮絶に美しく淫らだった。
 この男は…自分の美しさを知っているだろう。
 他者に自分がどう映るかも計算し、それを手駒にする術も知っている。
 しかし、いま、この飾らない淫らな男の表情をみつめているのは、自分ただ一人。
 アキラの全身に震えが走り、口に含んでいたシキの茎に思わず歯をたててしまった。
「こら」
 シキがアキラの顎に手をやり、自身を引き抜く。
「お前は少し落ち着かせてやらないと駄目なようだ」
 言って、アキラの雄にシキは指を絡ませた。
 焦らされた末の愛撫は、アキラをあっという間に高みへと追いやる。その昇りつめる感覚をアキラは「勿体無い」と思い、かぶりを振って抵抗した。
 しかしアキラを握りこむシキの手は、それを許さなかった。
「あっ…んんっ……っ」
 シキの手のなかで、アキラは弾けた。どく、どく、と、白濁が噴き出るたびに、アキラは腰を小刻みにゆらし、「あ、あ、あ」と切れ切れに、しかし尾をひくように長く呻いた。

「は……ああ……」
 目を閉じ、手足を投げ出し、ひとときの忘我を味わっていたアキラは、シキがベッドを離れたことに気づかなかった。 わずかな間をおき、再びシキが自分に覆いかぶさってくる。うっとりとその体に腕をまわしたとき。
「あ……!」
 アキラは臀孔に液体の冷たさを感じた。そこまではいつもと同じだった。違うのはその後焼けつくような熱さがそこを襲ってきたことだった。
 狼狽して身を捩る。かすかに甘い匂いが鼻を掠めて、シキがアキラの飲み残したあの酒を指ですくって塗りこめていることに気づく。
 生クリームの油分と乳糖の粘りは、充分潤滑剤になるものだったが、アルコールの刺激は受けいれるにはきついものだった。身を捩ってその刺激から逃れようとするアキラの耳元に
「アキラ」
 シキの一言が注がれた。
 恫喝めいたものはなく口調はむしろ優しかったが、それでもアキラは雷に打たれたように動けなくなった。
「申し訳……ありません」
 小さく呟き、体の力を抜いた。シキの指が灼熱の棒のような感触をもって、アキラのなかにはいりこんでくる。
「うっ…く、……あぁ」
 眉間に皺をよせ、その熱さにアキラは耐えていた。しかしふと気づいてしまった。こんな熱さをねじ込まれたことが以前にもあったと。
 それはシキそのものだ──
 シキと邂逅し、その目に射られ、シキの存在そのものを楔のように打ち込まれた。
 彼に出会うまで知らなかった──支配が決して屈辱だけのものではないと。
 自分が認めた絶対的な強者によるものならば、支配はとてつもない甘さをもたらすものだと。
 美しく強靭な己が支配者。彼が与えてくれるものなら、毒でも甘美、痛みでも悦びだ。
 その証拠に──アキラの体は蕩け始めている。一点を刺激していた熱が体中にまわり始めている。
「あぁ……はぁ、ん、うっ、……あ」
 小刻みに腰がゆれる。熱をもった粘膜がむず痒さを訴えている。ここを擦りたてて欲しいとシキの指に絡みつく。
「酔ったか」
 シキの囁きに首を横に振る。酔ってなんかいない。酔っているなら──もうずっとだ。
 うつぶせにされ、腰を抱えあげられ、尻の肉を割りひろげられ、期待と羞恥に甘い声がでた。
 シキの熱があてがわれる。アキラは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「あっ……う」
 痛みはなかった。ただ、はいりこんでくるシキが熱の塊のようで、その熱さと圧迫感にアキラは呻いた。すべてをアキラのなかに埋めて、シキがひとつ息をつく。その手がアキラの腰をつかみ、小刻みに揺すった。自分の高ぶりをアキラの道に馴染ませるように。
「は……」
 アキラの甘い声は、次の瞬間、なかを大きく穿たれることで悲鳴に変わった。
 音が鳴るほど、アキラの尻にシキの腰がぶつけられる。逃れたくとも、アキラの腰はシキの手に痛いほど掴まれていた。
「ひっ…あ…ぅあ、あっ…あ……あ!」
 乱暴なようで、その実、抽挿はたくみだった。穿つ角度はアキラが痛みを感じる部分を避け、弱い部分だけをやんわりと攻めていた。
 もとより、痛みだけの行為でも快感を拾うようになった体ではあったが、シキが自分を悦ばせようとしていることが、アキラをより高みへと誘った。
 こぼれる声は、もう甘さしか含んでいない。
「ああ……シキ…シキ!」
 もうずっと──酔っている。
 自分を支配する男の芳香に。
  
 時おり──トシマにいた頃の自分を思い返すときがある。
 あの頃と比べると、ずいぶん自分は変わってしまった。物の考え方も、生き方のありようも。
 しかし、あの頃の自分が素面で、いまの自分が酔いに狂っているのだとしたら──自分は酔いから醒めることなど選ばない。
 ずっとこの心地よい酩酊に身をまかせていたい。
 それほどこの支配者のもつ芳香は蠱惑的だった。
 アキラは思う。そう遠くない未来──世界中の人間が彼に跪き、その芳香に酔いしれるだろう。
 その日を想い描き、アキラはうっとりと吐息する。
 この身が彼の血肉になればいい。彼の盾になって死ねればいい。彼に搾取し尽くされ、何も残らないほど空っぽになればいい。自分がほんのわずかでも、彼の役にたつものでありたい。心からアキラはそう思った。
 「んっ…ああ…あう…あぁっ」
 そう思う間にも体は貪欲に快楽を貪ろうと、いやらしく蠢いていた。余裕などは端からないが、近づく絶頂にアキラの思考はいよいよ白くなっていく。
 頭を左右に振り、シーツに顔をうずめ──のけぞった。

「……!……!」

 迸りとともに何かの言葉が、アキラの口をついて出た。
 しかしアキラの絶頂に追いつくようにシキの熱がアキラの奥を射る、その侵される感触を味わうのに夢中で、自分が何を口走ったかなど覚えていなかった。

 短い死のような時間が過ぎ、世界がゆっくりと色と音を取り戻す。
 目にはいったのは、薄闇の色に染まったシーツ、耳にはいるのは、自分のせわしない呼吸。
 そこにシキの笑い声が被さった。
 シキはアキラの首筋に顔を埋め、くすくすと笑っていた。後戯のようにアキラの首に唇を這わせ、心の底から愉快そうに。
 ひそやかではあるが、シキがはっきりと声をたてて笑うのをアキラは初めて聞いた。
「総……帥?」
 胡乱さに、身を捩ってシキを見ようとするアキラを、シキは上体を使って押さえ込み、その耳に囁きかけた。
「俺も……少し酔ったようだ」
 そう言って、シキはアキラの身体から離れた。
 何に──?
 問いかけはしなかった。ただ濡れた瞳でシキを見つめた。
 シキはサイドテーブルに置いたカクテルグラスを手に取り、残り少ない中身を一息で煽った。
 そのまま、またアキラに覆いかぶさり、唇を合わせる。

 王の名を持つ酒は、アキラの唇を湿し、喉を流れ、やがてその身体を熱くしていった── 

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コメント

nnんきゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
MOE!!
ハァハァ(//o//)

投稿: Novembar | 2011年12月11日 (日) 19時37分

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