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2005年10月18日 (火)

赤い花

白い花をアキラは見ていた。
ベッドにだらしなく横たわりながら。

ベッドヘッドの傍らに置かれた花台から伸びた弓なりの茎。その先に甘い匂いを放つ艶やかな花が、少し重たそうに花弁を開いている。
名前は知らない。蘭の仲間だとかシキが言っていたような気もしたが、どうでもよかった。
薄暗い部屋のなかで、その花をいくら眺めても、アキラにはなんの感慨も浮かんではこない。もうずっとアキラにはそういう感情が欠落している。

背後で扉の開く音がする。振り返って確かめるまでもない。ノックなしにこの部屋にはいってくる人間は一人しかいなかった。
シキ──
この城の主、アキラの所有者。
アキラはベッドに横たえていた体を起こし、こちらに向かってくる相手に両手をひろげた。
「おかえり」
言いながら笑顔を見せる。実のない笑顔を。
シキは歩きながらコートを脱ぎ、長椅子の上に放った。そしてベッドに倒れこむとアキラの膝に顔を埋めた。膝にシキの吐息の熱が浸透する。
アキラはシキの髪を撫でる。自発的な行為ではない、シキにそうやって出迎えろと「命令」されたのでやっているまでだ。こんな決まりきったことをされて嬉しいのだろうか。
早くこんな茶番に飽きて、自分を斬り殺してくれればいいのに。
シキの髪を梳きながら、アキラはぼんやりと考える。

トシマを脱出してから、シキが麻薬王として君臨するまでの数年間、アキラはほとんど軟禁されていた。
シキはアキラには見えない場所で活動していた。情報のはいってこない狭い場所で世界がどう変わっているのか知るすべもなかったが、アキラのいる場所が廃ビルの一室からマンション、ホテルへと変わるたびに、周りについてる人間は増え、空気はものものしくなり、シキの権力が増大していくのは感じられた。

それに比例して、アキラの感情は萎縮していった。
変わりゆく世界のこと、シキのこと、自分の先のない未来、それらのことを「考えないこと」で処理していけば当然のことだった。そしてアキラには、そうする以外なかった。

やがてアキラはシキに、城としか形容できない豪奢な建物に招きいれられた。
アキラの部屋は今までになく広くとってあり、アキラが所在なく立ちすくんでいると、シキが窓を開け「こっちを見てみろ」とバルコニーへと促した。
城は高台にあり、眼下には林、その向こうには淀んだ街が見下ろせた。
あの街はもうシキの支配下にある──生ぬるい風に髪をなびかせながらそう考えたが、なんだか実感がなかった。
あの街にはたぶん、無数の痛みと苦しみがこごっている。
そう考えても、アキラの胸のなかは驚くほど平静だ。
「アキラ」
シキがアキラの後ろから腕をまわして抱きすくめてきた。息を吹き込むように耳元で囁く。
「どうだ。俺が塗り替えてやった世界は」
そう言われても、何も感じない。答えるのも億劫で、アキラはシキの硬い二の腕に頬を預けた。

CFCにいた頃のアキラは、生にも死にも執着がなかったが、今はある。
死のほうに。
シキの自分への執着が、抗うこと、反発することにあると気づいたアキラは、あるときから徹底的にシキに服従する態度をとっていた。
命令はすべて聞き入れた。足を舐めろと言われれば舐めたし、卑猥な言葉も求められればためらいなく口にした。
そうしてつまらない人形になった自分をさっさと斬り捨ててほしいとアキラは思う。
絶頂にのけぞる首に、刃を落としてくれることを願っていたが、たいてい落ちてくるのはシキの唇だった。

こうしてアキラは今も生きている。シキの髪を撫でている。

アキラの膝の温もりを頬に受けていたシキが、体を起こした。部屋の隅に置いてあるトレイに目をやる。
「また全然食べていないな」
「少しは食べた」
「…間違いさがしじゃないんだぞ」
シキが言った。冗談なのだろうか。アキラは曖昧な笑みを返した。
「待っていろ」
シキは立ち上がり、部屋を出た。作り直したものを持ってこさせるのだろうか。
面倒な気持ちにため息がでる。
しばらくすると、確かに作り直されたものがやってきたが、それを運んできたのは従者ではなくシキだった。
シキがトレイを持って、慎重に歩いてくる。
アキラが何も言わずにまばたきをしていると、シキはトレイをベッドサイドに置き、自分もベッドに腰掛ける。
トレイの上には、湯気のたったスープと焼きたてのパンと葡萄が乗っていた。
「ほら」
スープをすくった匙をアキラの顔の前に突きつける。アキラがぼんやりとシキの顔を見返していると何かに気づいたのか、その匙に数回息をふきかけ、もう一度アキラの前に出した。
「……」
しかたなく、アキラはその匙を加えてスープを飲んだ。
そのあとにちぎったパン、剥いた葡萄を口にいれられた。そうしながら、ときおりシキは自分の口にもパンを放り込み咀嚼する。
…こんなことが楽しいのだろうか。シキは。
葡萄を噛み潰しながら、アキラは上目遣いでシキを見た。かすかにあがった口角、細められた目。
何か反応しなければいけないような気がして、とりあえず「美味しい」とだけ言った。
「そうか」
そう言ってシキはアキラの果汁のついた唇を指で拭った。

世界を塗り替え、震撼させるほどの狂気を孕んでいるシキだったが、それが始終表にでてるわけではなかった。
むしろ狂気がなりを潜めているときのシキは、以前よりあどけない、子供のような一面を見せるようになっていた。
それにはっきりと気づいたのは、先日の食事の一件だったが、それ以前からたしかにアキラに甘えるような行動が多くなったと今になって思う。
しかしそんなシキの変化も、アキラにとってはどうでもいいことだった。
アキラの世界はこの部屋だけで、シキに抱かれるために自分がいる、という状況になんら変わりはないからだ。

ある日、シキがアキラの部屋にアクアリウムを設置した。
水槽は巨大で、色とりどりの小さな魚がかたまりになって万華鏡のように絶えず色と形を変えていった。
アキラとシキは薄暗い部屋のなか、肩を寄せ合いながらそれを見ていた。
美しい…のだろう。本当は。
アキラには、それが感じられなかった。
狭い世界に閉じ込められてる者が、さらに狭い世界に閉じ込められてる者を見つめている。
馬鹿馬鹿しいことだった。
ふと焦点を遠くに移すと、水槽の奥、ガラスに映ったシキと自分の顔が見えた。
シキははっきりと微笑んでいて、それは魚を見るよりは面白かった。
アキラがクスリと笑うと、気に入ったと勘違いしたらしいシキがアキラの頬に唇を寄せてきた。
傍から見れば穏やかな光景かもしれないが、アキラの死にたい気持ちは募るばかりだった。

シキに優しくされるのが辛い。
この生ぬるい監獄から解放してくれるのは、他ならないシキだけで、そのシキがアキラに対してこうではわずかな光明すら消えてしまう。
シキにいつか殺してもらえると信じることだけが今のアキラの支えだったから。

シキが「活動」している昼間の時間、アキラは惰性で水槽を眺めていた。
そのとき扉がノックされ、トレイを持った従者の男がはいってきた。
いつもと違う男─新入りらしいその男は、アキラに視線をやると、慌てて顔を背けた。
アキラは裸にシャツをはおっただけで、前を閉じることもしてなかった。男は年若く色事の経験もなさそうだ。顔を赤くしながらチラチラと目線だけアキラに向けている。

自分が他人の目にどう映っているのか、あまり気にかけてないアキラだったが、ときおりシキが「立っているだけで男を誘っているようだ」とぼやくようにアキラを評することがある。
この数年で以前よりさらに白くなってしまった肌、それが際立たせる目許と唇の赤さ、細いが、まだかつてついていた筋肉のしなやかさは失っていない体の線。
別に好きでなった体ではないのに、勝手に誘ってるようだと解釈されることに不満だったが、ふとある考えがアキラのなかに泡のように浮かび上がった。

本当に誘ったら、誰もがのってくるのだろうか。
胸が鳴った。
そうだ、何故今まで気づかなかったのだろう。
シキを裏切ればいいんじゃないか。そうすればあの男だって激昂して自分を殺してくれるはずだ。
「お前」
アキラが声をかけると男は振り返り、目を丸くした。
アキラは床にシャツを脱ぎ落として、男の前に白い素肌を晒していた。
「退屈なんだ。遊んでくれない?」そう言って、男の頬を撫でた。男の体がおおげさにすくむ。
「そんな…シキ様にばれたら…おおごとです」
「大丈夫、あれはああ見えて意外に鈍いんだ。もしばれてもお前の名前は絶対ださないから」

アキラは微笑んだ。それは解放への計画を思いついたことによる、浮き立つ気持ちが生んだものだが男には、それがひどく淫猥なものに映った。いまのアキラには意識せずとも、他人にそう見せてしまう退廃的な色気があった。
男の頬にあてた手をするりと首筋へと移動させる。その喉が上下に動いた。
「お前、こういうこと知らないんだ?すごく…楽しいのに。俺が教えてあげるから」
言いながらアキラは、ふっ、と男の唇に息を吹きかけた。
その唇がわななき、引き締められ、アキラの唇に吸いついてくる。
男にかき抱かれながら、あまりのたわいなさにアキラは少し驚いていた。
しかしその陥落させる手ごたえは、アキラの胸に永く忘れていた達成感のようなものを感じさせていた。

シキとは比べるまでもなかった。
力のこもりすぎた痛いばかりの愛撫も、がさつな腰の動きも。
しかし文句は言わなかった。止められては困るからだ。
男に揺すられながらアキラはぼんやりと考えていた。
楽しいと思ったのは、落とすまでの一瞬だけだったな…。
でもいい。退屈も虚無も今日で終わりだ。
もうすぐ、シキが帰ってきたらすべてが終わる。

男が呻いてアキラの腰をつかみ、震えた。
とりあえずアキラも満足げな吐息で、男を労ってやった。
「早く、お帰り」
アキラはそっと体をずらして、男のものをはずした。中に注がれたものがこぼれないように少し腰は浮かせたまま。
「周りには、俺がわがままを言って引き止めてたって言えばいい。たとえば…俺がさくらんぼが今すぐ食べたいって言い出したとか」
「さくらんぼ…お好きなんですか?」
「いや、別に」
アキラは笑った。近づく終わりを感じて少し高揚してるのかもしれない。
「とにかく…早く、戻ったほうがいい。あと…」
「ありがとう」
そう言ってアキラは男を扉の向こうに追いやった。

アキラの体内に残った残滓を確かめるまでもなく、部屋にはいったとたんにシキの顔色は変わった。
ニコルウィルスのキャリアーであるシキは、すべての身体能力が増幅されている。
当然、それには嗅覚もはいっていて、部屋にこもる、わずかな男の匂いをシキは感知した。
「アキラ」
「はい」
「今日、ここで何をしてた」
シキの赤い眼が吊りあがった。
「他の男とSEXをしてました」
それは完全な挑発で、アキラはそう言い放って花のように笑った。
シキの眉間に深いしわが刻まれ、アキラは胸の高鳴りがおさえられなかった。
早く、早く──殺して。
心のなかで呟きながら、うっとりとシキを見つめる。

しかしシキは踵を返すと、部屋を足早に出て行ってしまった。
呆気にとられて、開け放たれたドアのほうを見つめていると、やがて男の悲鳴が近づいてきた。
高鳴りは動悸に変わり、淀んだものが胸を覆う。
予感は的中し、シキは、数時間前に自分とまぐわった男の襟首をつかみ、ひきずりながら部屋へと戻ってきた。
「この男か」
男を床に放り出す。
男は一瞬、すがるようにアキラのほうを見たが、すぐに丸虫のように床の上でうずくまり震えだした。
「なん…で」
わかったのか。
「この男からお前の匂いがしたからだ。お前の甘い匂いが」
言って、シキはにやりと笑った、底冷えのする笑顔だった。
「シキ…!」
思わず叫んでいた。
「お、俺が誘ったんだ。この男は…悪くないっ!殺すなら俺を…」
巻き込むつもりはなかった。自分ひとりが殺されたかったからしたことで、そんな自分の欲のためにこの若い男の未来を断つことはできなかった。

しかし、アキラは読み違えていた。
男を庇うことが、よりシキの怒りを増大させることを。
男は、すいません、すいません、と呟きながら、額を床にすりつけていた。
「顔をあげろ」
シキが言うと、男は涙で濡れた顔をあげた。
次の瞬間、シキの日本刀がパン、と薙いで男の首をはね落としていた。
アキラの心臓と体が同時にビクン、とはねた。次いで脂汗が吹き出る。
シキは表情ひとつ変えず、男の首を髪をつかんで持ちあげると、アキラの前に突き出した。
「あっ…あ…っ」
体ががくがくと震えて、声が声にならない。そんなアキラをみおろしてシキは言った。
「この男の白い血をお前は味わったのか」
返事などできるはずもない。
「赤い血のほうも、どうだ。味わってみるか」
言いながらシキはアキラの頭上で男の首を振りかざした。切り口から滴る血が、アキラの髪、頬肩に降り注ぐ。
「あぁぁっ!!うっああっ…ひっ…」
鉄の匂いがまとわりついて、吐きそうになる。シキはアキラを突き飛ばすようにベッドに向かわせ、シャツを剥いだ。
全身が震えている。全裸であるという心許なさが、よけいに恐怖を煽った。シーツをつかみながらうずくまっていると、シキは、倒れている男の右手をつかみあげ、刀でその指を断ち切った。
4本の指がばらばらと床に落ち、その一本を拾ってアキラのほうを向いた。
「ひ……っ」
「こいつに、ほぐしてもらうか?」
切り落とした指をアキラの前に突きつけ、ぞっとするような声音でシキが言った。
アキラは懸命にかぶりをふった。しかしシキはアキラの頬に、その指を這わせた。
全身に鳥肌がたって、声にならない悲鳴が漏れた。
そんなアキラを見てシキは笑いを含んだ声で言った。「冗談だ」と。
そしてつまらなそうに男の指を床に投げ捨て、ベッドにあがりこんだ。
「お前に触れていいのはこの俺だけだ」
アキラに覆いかぶさり、シキは一切の愛撫もなしにアキラの窄まりを貫いた。
「うっあっ…あっぁぁぁぁぁぁぁっっ」
普段ならも到底無理な行いだが、アキラの体にはあの男の残滓がとどまっていて、それがすべりをよくしていた。そしてシキもそれを知っていた。
シキはもうこれ以上は無理というほど、腰をきつく合わせ、アキラの奥底に昂ぶりをねじこんだ。
「アキラ…知っているか」
シキが耳元で呟く。
「男のペニスのカリの部分がなんのためにあるか…」
息をつぐのも精一杯のアキラに答えられるはずもない。
「別の男の精液を掻きだすためにあるんだそうだ…。いま初めて、本来の使い道をしてるということになるな。獣だな。俺も、お前も」
言いながら、アキラの耳朶をギリギリと噛み締めた。
「あっ…おぁ…っ」
確かに今のシキの腰使いは引きが強く、中のものをかきだす意図が感じられた。
そして、そんなシキの労わりの一切ない動きに炙られて、アキラの体は熱くなっていった。
何故かはわからない。ただ、今自分を犯しているシキは、トシマでのシキに似ていた。
得体の知れない、凶暴な、嵐のような。
その嵐がアキラのなかで吹き荒れている。
アキラのなかを懸命に揺さぶり、眠っている感情をたたき起こそうとしている。
何かが堰をきり、何かがあふれる。固く閉じた瞼の裏がぐるぐると光の渦を巻いた。
「あっ…あっ…んっ…」
声がもれる。アキラの変化を見て取ってシキが唸った。
「淫売め」
シキのストロークが早くなる。
「あぁっ…かっ…ぁあっ…」
息があがって、犬のようにだらしなく舌を垂らす。
「言え。何故、俺を裏切った」
答えられない。がくがくと頭が揺れて言葉など紡げない。
「俺は…お前を…」
「……っ……!」
次の言葉を聞く前に、アキラは意識を手放した

温かいものを感じて目が覚めた。
もう夜は明けていた。

意識が戻ると同時に体中のあちこちから痛みが襲ってきた。
下半身の裂傷から来る痛みはもちろんのこと、鬱血するほど噛み締められた乳首、シキの爪が食い込んだらしい両腕もずきずきと痛んでいる。
うつろに天井を見上げながら、アキラは痛みを味わっていた。その間にもぽたりぽたりと腹に温かいものが落ちるのを感じる。
血のような気がしていた。
またあの男の血を垂らしているのだろうか。
しかし恐怖は感じていなかった。
感情が何もかも削げ落ち、本当の人形になってしまったんだ。自分は。
そう思い、視線を下に移すとそこにはシキの顔があった。

シキはアキラの腰をまたぐように座っていて、アキラの顔を見つめながら──泣いていた。
子供のように口を薄く開けながら、声も出さずに涙を流している。
長い睫毛に半分隠された赤い瞳、白い頬、流れる涙は窓から差し込む薄日を受けて光って見えた。
なんて綺麗なんだろう…。
アキラはそう思い、そう思ったことに胸がつまった。
いま、自分は美しいものに感動している。もうずっと忘れていた感情。
シキがアキラの視線に気がつく。「…生きていたか」安堵の声音。
「シキ…」
アキラはゆっくりと上体を起こし、シキの顔を間近で見つめた。
狂気の抜けたあどけない表情、愛しくて思わず唇を寄せた。驚くシキの表情がまた可愛いと思い何度も唇を離しては、合わせた。
ふと周りを見渡せば、夜明けの光の差し込む部屋は血まみれだった。
床はもちろん血の海だし、自分たちをくるむシーツもあの男の血とアキラの血が擦ったようにこびりついていた。シキがくれた白い花も、男の血飛沫を浴びて赤く染まっていて、自分はといえば、髪についた男の血が乾いて凝り、腹や胸には自分のものらしい精液がぬめっていた。

まったく地獄のような有様だったが、それすらもアキラは美しいと思った。
アキラの心はいまひどく澄んでいて、目に映るものすべてがアキラの心を打った。
もしかしたら、自分は狂ってしまったのかもしれない。
アキラは思ったが、それでも昨日までの自分よりよっぽどいい。
こうして目の前にいる男を美しいと、いとおしいと感じられる自分のほうが。

「シキは綺麗だな。好きだよ」
思ったままのことをアキラは口にした。
シキの目が一瞬、驚きに丸くなったが、すぐに苦笑に細められた。
「どうした。急に」
「シキの泣き顔が、こんなに綺麗だと思わなかった。」
「俺だって…驚いてる。自分にまだこんな部分が残ってたのかと」
拗ねたようにシキは顔を背けた。その顔を追ってアキラは頬にくちづける。
「もっと…見たいな。これからも、何度も」
アキラが囁く。それはかつてシキがアキラに対して抱いていた気持ちに似ているかもしれない。
惑わして、翻弄して、傷つけて、そして最後に愛しさにこっちが惑うような。
シキは呆れたように大きな息をついて、そのあと、笑った。
「まったく…お前は悪魔のような奴だな」呟きながら、両手をアキラの首にまわした。
アキラも笑った。悪魔そのものの男に、悪魔のようだと言われるのも悪くない。
そうして、また唇が触れ合わされる。今度は深く。

死の匂いの充満した部屋で、アキラは生の喜びを感じていた。
ただこの先、自分が生きるためには糧が必要だと知ってしまった。
血の赤、涙の美しさ、悲しみの甘さ。
それらを食らって、自分は生きていく。
唇を離し、シキの肩にもたれかかって微笑んだアキラの顔は、今までに誰も見たことのないものだった。

部屋の片隅では、血塗れた赤い花がアキラを祝福するかのように甘い匂いを放っていた───

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コメント

淫靡アキラになる過程というか、どう壊れていくかにすごく興味が
あって書いたもの。でもこのアキラは、SEXより血が好きそうなカンジですけど。

投稿: 後藤羽矢子 | 2005年10月19日 (水) 22時50分

はじめまして、後藤羽矢子さま!
初めてコメント書きます。拙いのですがどうぞよろしくお願いします。
『咎狗の血』をHPで触発されて、先日ついに購入しました!――少しいまさらですが、BL目覚めたのつい2ヶ月前で咎狗HPで見つけたのつい最近なので…。せめて高校生の頃かもう少し早く目覚めていればもっと時間あったのに、とすこし後悔――シキが凄く好きなので手っ取り早くEDをリン>シキと進めました(笑)

貴殿の『赤い花』すごく心臓にきました(>v<)アキラにべた惚れで甘甘なシキが新鮮で素敵でした。
全部良いのですが特に好きなのが、アキラが《絶頂にのけぞる首に、刃を落としてくれることを願っていたが、たいてい落ちてくるのはシキの唇だった。》と思うシーンで、シキの執着の程が窺えてかなり萌えてしまいました。その他アクアリウムとか食事とかがんばってアキラを生かそうとするシキカナリ萌(>v<)
死にたがりアキラと甘えるシキは自分の中でかなり高ポイント占めました!!せつないのが更に良い感じで(^^)

素敵な小説(+萌←笑)ありがとうございました!お仕事期待してます。
では長々と乱文失礼しました、菖蒲でした☆

投稿: ayame | 2005年11月 9日 (水) 16時11分

>菖蒲さま
ありがとうございますー。
私のほうも、8月にハマったばかりの新参者ですが、勢いと萌えで書いてしまいました。
シキアキはベタベタしすぎないところが好きなんですが、やっぱり本編であまりに甘さの足りない二人なので、つい補完したい気持ちに…。楽しんでいただけて幸いです。
次の更新は近日中にする予定です。
またシキアキで、エッチてのの予定です。
ではでは。

投稿: | 2005年11月10日 (木) 03時35分

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